「猫」
 
その猫は静かな寝息と共に眠っている。
静かな、静かな、午後の温もりの中
小さな、寝息を立てて眠っている。
 
きっとさっきもらった猫まんまを
お腹一杯食べて、満腹なんだろう。
 
猫の眠っている姿は不思議なものだ。
人の心に静寂と安心をもたらす
その姿を見ているだけで日々の憂さを忘れる。
 
潾二郎の描くこの「猫」は勿論画家の飼い猫だ。
この絵を見ているだけで、潾二郎を知らない人でも
きっと、画家が愛猫に抱く愛おしい思いが、
丁寧な筆致ひと筆ひと筆から伝わってくると思う。
 
また、よく見るとこの猫の髭は片側しか描かれていない
これは、潾二郎がこの絵を長い時間かけて描いている間
猫が死んでしまったからだ。
その後、潾二郎は決してもう片側は描かなかったと言う。
 
そこには、愛する猫を失った潾二郎の悲しみと、
リアリズムを旨とする画家としのポリシーを感じる。
 

 
こちらも猫の絵だ、
上の猫と異なりこちらはなんとなく、アンリ・ルソーを思わせる
どこかプリミティブで愛らしい絵である。
子猫であろうか、身体を伸ばし、不思議そうにこちらを見つめている。
 
潾二郎はこうした、何気ない日常の風景や静物を
時間をかけじっくりと描いている。
その仕事は丁寧で、決して手を抜かない。
 
画壇からも遠くはなれ、孤高と静謐を貫いた本物の画家である。
生前の評価は殆ど無かったが、その素晴らしさが近年評価されて
回顧展など開かれる様になった。
 
この猫の絵以外でも潾二郎は素晴らしい静物画や風景画を残している
美術ファン以外にはあまりなじみがないかもしれないが
もし、長谷川 潾二郎と言う名前を聞いたらぜったいに見逃してはならない
 
それは本物を見る事のできる稀有な機会であるから・・・。
 
 
長谷川潾二郎画文集 静かな奇譚
長谷川潾二郎2012年カレンダー