「眠れるジプシー女」
 
夜空の星たちの明滅の音が響く

眠っているのか目覚めているのか解らない

空気は澄み切っていて

寒くもなく暑くもない

言葉にならないテレパシーが心の中で囁きかける

「あなたの前世を知っています」

「遠い昔あなたと私は恋人同士でした」

「しかし、逃れられない運命が二人を別ちました」

「私は悲しみにくれて・・何日も何年も泣き暮らしました」

「食事ものどを通らず、眠る事もできませんでした」

「身体は衰え、意識は薄れ、生きているのか、死んでいるのかさえ解らなくなりました」

「そして、骨と皮だけになった私に変化の兆しが現れました」

「それは、全身から黄金の毛が生えはじめ、指からは黒々とした爪が伸び、

口は二つに大きく裂けて来て、やがて私の姿は獣のそのものへと変わって行きました」

 

「獣となった私はあなたを探し、何日も何年も砂漠を旅しました」

「そして今夜、やっとあなたを探し当てる事ができたのです」

「私の声は、もう獣の声にしか聞こえないでしょう」

「私の顔は醜い獣のそれでしょう」

「しかし、私は今ここに来られて幸せです」

「なぜなら、あなたの夢にこうして姿を現せるからです」

「私は世界一の幸せ者です」

 
 
そうして、
 
月は動きを止めてしまった。

星たちも囁きをやめてしまった。

この夜が永遠に明けない様に

二人の夜が明けない様に・・・。

 
アンリ・ルッソー「眠れるジプシー女」