病院診療科目
 
「異常ないようですね、腫瘍マーカーも正常範囲ですし、CTの結果も特に異常な所見はありません」今朝、検査の結果を聞きに言った病院で担当の医師がその様に言ってくれた。いつもの事ながら「異常なし」の言葉を聞くまで正直生きた心地がしない・・。
 


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俺は現在53歳だが、38歳の時精巣腫瘍と言う睾丸にできる癌を経験した。正確には覚えていないが4段階ある癌のステージの中で恐らくステージ1の初期の段階で発見されたと記憶している。
 
はっきり変だ・・と気付いたのは病院に行く前日の事である。トイレに行って偶然手に触れた睾丸が何となく硬いのである・・。手で触ってみると石ころの様な硬さだ。もう一つの睾丸と比較しても明らかに硬さが違う。(これはおかしい・・)一気に心臓の鼓動が高まり奈落の底に突き落された様な不安感に心が襲われる。
 
まさか・・精巣腫瘍?その病名が頭を一瞬かすめる。俺がそう思ったのは以前勤めていた会社の上司がやはりこの病気を患ったのを知っていたからだ。同じ病気を自分も患うなんて想像もしていなかったのだが・・。
 
しかし、何度触って確かめてみてもやはりおかしい・・これは現実だ夢でも何でもない・・。そう思いしばらくは茫然となってしまった。だが・・もしかしたら勘違いかもしれない・・などと希望的観測を抱きつつパソコンに飛びついて検索を始めた。
 
検索すると色々な事が分かった・・この癌は進行が結構速いらしい事、勿論ほってはおけないが初期から治療を始めれば予後は比較的良いらしい事・・(ケースバイケースではある様だが)。俳優の松田優作はこの癌で命を落したらしい事・・。などなど検索すればするほど自分の症状は精巣腫瘍に当てはまっており焦燥感は募るばかりだ。
 
半日もパソコンにかじり付いて検索しまくってみたがしまいには自分のしている事にまったく意味が無いと思えてきた・・「こんな事してるより早く医者にいって診てもらったほうがいい」そう考えたからだ。そんな事で翌日には近所の市民病院の泌尿器科を受診した。
 
そうして早々と診察してもらったのは良いのだが・・結果はやはり精巣腫瘍いわゆる睾丸の癌だったのだ。正確に言うと診断が確定したのは病院に行ってから二週間後の事だった。現在はもっと早く対応すると思うが俺が行った病院では腫瘍マーカーの血液検査を外注している様でそれだけ時間を要したらしい・・。
 
正直、今思うとこの二週間は地獄の様な日々だった。死の影が現実味を帯びて感じられ、崖っぷちに立たされ後ろから背中を押されて今にも落ちそうな瞬間がずっと続いている様な感覚だった。「早く結果を知りたい・・」そんな思いが突き上げてきて鬱鬱とした日々を過ごしていた。
 
そして、長かった二週間がやっと過ぎ結果を聞く日が来た。ドキドキしながら主治医の前に進むと主治医は「この二週間自分でも色々と調べたと思うけど・・」などと俺の行動を見透かす様な事を言い説明を始めた。そして詳しくは覚えていないが何やかやで腫瘍マーカーの結果やCTの画像などを示されたと思う・・。そして最終的には精巣腫瘍と言う病名が告げられた。
 
その言葉を聞くと「やっぱりなぁ・・」と言う思いを抱くと同時に「分かっているならもっと早く知らせて欲しい・・その間にも癌が進行したらどうしてくれる!」と言う恨みがしい気持ちを持った。
 
しかし一旦診断が確定すると主治医の対応は早かった様に思う。その日のうちに睾丸を摘出する手術をすると言う・・。イヤだとか恐ろしいとかそんな感傷に浸る間も無く即、手術だった。これには少々戸惑ったが後から思えばそれはむしろ有難かった。癌であるので転移を考えると病巣は早く取り去ってしまった方が良いに決まっているからだ。
 
そうしてその日の午後から手術の準備に入る。手術前には下半身の陰毛を看護師さんに剃ってもらう・・日頃だと照れくさいと感じるだろうが病気の事で頭がテンパッている為か変な感情も湧かない。それが終わるとシャワーで全身を洗った。さすがにそれは自分で行う。そして身綺麗にして病室の自分に割り当てられたベットで手術の時間を待った。
 
しばらくすると担当の麻酔医がやって来る。気持ちを静める為だろうか精神安定剤?的なものを注射される。すると何となく意識がボーっとしてくる。子供の頃眠くなるとこんな気分になったなぁなどとのんきな事を考え始める。
 
やがて、時間になり手術室へ運ばれる。先程の麻酔医が俺の口に吸入器の様なものをあてがいながら「もしかすると眠くなりますよ」
と言った。しかしその言葉を聞いたと同時に俺は深く眠ってしまったらしく意識がストンと落ちてしまい記憶が断絶してしまう。
 
後で聞いたのだが手術は1時間程だった様だ。目が覚めると先程の麻酔医が視野に入ったので「これから手術ですか?」と聞いてみる。すると「もう一回手術する?」と妙な返答が返ってきた。何の事はないもう手術は終わっていたのだ。俺の感覚ではまばたきする一瞬にしか感じなかったが・・。
 
手術が終わったその夜は集中治療室に寝かされる。身動きが一切禁じらているのでトイレにも行けない、しかし心配ない様だ。尿道に管を入れてられているらしく尿意などいっさい感じない。
 
薄暗い集中治療室のベットに横たわりながら、手術前の主治医の言葉を思い出していた。「抗がん剤治療もするかもしれない」そう言われていたのだっけ・・。「抗がん剤か・・副作用が心配だなぁ」と内心ビクビクしていた。しかしその後幸いにして自分のステージではそれは「必要なし」と判断されたらしく退院までの間、ついに抗がん剤を使用する事は無かった。
 
あれから16年が経つ・・、退院してもなお半年に一回。もしくは一年に一回の確認の検査を受けている。冒頭でも書いたが検査の結果が出るまでの数日間は今でも生きた心地がしない・・。しかし「異常なし」と言う結果を聞くと何か心の底からこみ上げてくるしみじみとした歓びを感じる。「ああ、これでまた生きられるんだ・・」大げさに聞こえるかもしれないが偽らざる俺の気持ちだ。まあ、検査は続けざるを得ないが自分は幸いにして初期で済んだので今に至るも再発がないのだと思う。
 
そんな事から今こうしてこの記事を綴っていて思う事は早期発見の大切さだ。自分もそうした様に今の今、自分は 精巣腫瘍かもしれない・・と思ってネットで必死に検索してこの記事に辿りついた人がいるならこう言いってあげたい少々言葉はきついが大切な事だ。
 
「今すぐ検索をやめ迷わず泌尿器科を受診しろ!一刻も早く!それが間違いなく最善の策だ」と。
 
時間は待ってはくれない、勇気をだせ。恥ずかしくなんかない。開き直れ!「案ずるより産むが易し」だ。同じ境遇を過去に経験した者として君の決断を応援しているぞ。